藤田 知也 「強欲の銀行カードローン」の書籍レビューです。
概要
年収ゼロでも、学生でも! 無制限に貸し付ける銀行にモラルはあるのか
2016年、自己破産者が13年ぶりに増加した。原因の一つとされるのが銀行カードローンだ。
消費者金融にある貸出額への規制が銀行にはなく、無謀な貸し付けが横行していた。ヤバすぎる実態を明るみに出す。
消費者金融とクレジットカードで多重債務をかかえ、債務整理中のてっぺです。
多重債務者として気になるタイトルの書籍を見かけたので、たまらず購入してしまいました。
自分の借金の原因はアコムやプロミスといった消費者金融がメインであり、3 年前から債務整理で淡々と返済中の身であるため、
最近は銀行カードローンが多重債務の原因になっていると聞いてもいまいちピンときませんでした。
銀行カードローンというくらいですから銀行が個人に対して融資をしてくれるものなのですが、
銀行の融資というと住宅ローンのような低金利で特定の目的でしか貸してくれない、そして借りるための審査もすごく厳しそうといったイメージがあったためです。
しかし銀行カードローンの実態は、「銀行」という自分たちのクリーンなイメージをうまく利用した強欲な金貸し業だということを本書で知ることができました。
自分が過去、借金地獄で陥っていた頃に出会わなくて本当によかったと思いました。
消費者金融と銀行カードローンの違い
消費者金融と銀行カードローン、どちらも「お金を貸してくれる」という点では共通しているのですが、対応する規制は全然別物になります。
それぞれの具体的なブランド名をあげたほうがイメージがつきやすいかと思います。
消費者金融の例
- アコム
- プロミス
- アイフル
- 武富士 (2010 年に経営破綻)
銀行カードローンの例
- バンクイック (三菱東京 UFJ 銀行)
- 三井住友銀行カードローン
- みずほ銀行カードローン
消費者金融と銀行カードローンのメンツの違いを抑えた上で、法的な違いを見てみましょう。
消費者金融 | 銀行カードローン | |
貸出額 | 総額で年収の 1/3 以下 | 上限なし |
収入証明書 | 50 万円超の貸し出しで確認義務 | ルールなし |
広告表現 | 自主規制や事前審査が必要 | |
テレビ CM | 放送回数、時間帯の制限あり |
※本書から引用
表を見比べるとわかる通り、
消費者金融はかなり規制がかけられているのに対し、銀行カードローンはほぼ規制がない状態です。
この違いは消費者金融は貸金業法の対象業務であるため法律での規制がかけられているのに対し、銀行には同様の法律・規制がないため金貸し業に関してはどこまでも突っ走れる状態にあるのです。
消費者金融の貸金業法には総量規制というものがあるため、年収の 1/3 が借りれる金額の限度になり、この 1/3 は「これくらいなら、がんばれば破綻しない程度に返せるだろう」という目安で設定されています。
対して銀行カードローンは貸し出し上限額がないため、極端に言えば「生きるか死ぬか」の状態までお金を貸すことができます。
また銀行カードローンの場合、広告表現やテレビ CM への規制がないことも特徴的で、
芸能人を起用し、無制限に CM を垂れ流しまくることで、無意識のうちに借金への敷居を下げることも可能なわけです。
お金の貸し出し方の違い
特に貸し出し上限額の違いから、両者では顧客への貸し出し方法も違ってきます。
従来の消費者金融の場合、初めての借金の後ろめたさから 10 - 20 万円から始まり徐々に借金額が膨らむケースがほとんどだったのですが、
銀行カードローンの場合、限度額が大きいほど低金利になることを謳い文句に 100 - 200 万円を初回から貸し出すため、利息や借金額が膨らみやすい傾向になるそうです。
そして以前は銀行から借りることができない人が消費者金融を利用していたものが、
最近では消費者金融で借りることができなくなった人が銀行カードローンに流れるといった逆転現象が発生しています。
※消費者金融では年収の 1/3 までしか借りれないため
看板は「銀行」、運用は「消費者金融」
これだけなら銀行の暴走行為にしか見えないのですが、銀行カードローンというくらいなので、銀行が独自に運用していると思いきや、
銀行が提供しているのは自分たちのブランド名だけで、実はその裏側の審査・回収などのバックグラウンド業務はアコムやプロミスといった消費者金融が保証会社という立場で行っているケースが非常に多いという現実があります。
金融機関名 | 保証会社名 |
三菱東京 UFJ 銀行 | アコム |
三井住友銀行 | SMBC コンシューマファイナンス (プロミス) |
みずほ銀行 | オリエントコーポレーション |
セブン銀行 | アコム |
ソニー銀行 | アコム |
楽天銀行 | 楽天カード、セディナ |
※本書から引用
銀行はネームバリューとクリーンなイメージを利用し消費者の借金への障壁を下げ貸しやすくする、
そして消費者金融は銀行から保証料をもらい、これまでの貸金のノウハウを活かし貸した相手への回収代行などを行うわけです。
つまり表に出る役割と、裏側で運用する役割で二分化しただけであり、
貸金という、やり方を間違えると消費者の人生を狂わせてしまう仕事への規制がなくなってしまっただけの状態ではないかと感じます。
また銀行からの借り入れの場合は多重債務にカウントされないため、国から提示されている「多重債務者」のデータを曖昧にしてしまい、多重債務問題の実態が分からない状態になってしまいます。
つまり一昔前に多重債務者問題が取りざたされ、消費者金融では 1/3 以上借りれなくなったような改善策が取りづらくなることに繋がる恐れがあります。
銀行がカードローンへ注力し始めた背景
銀行がカードローンへ注力し始めた背景として、低金利政策のため住宅ローンなどでは利益が見込めなくなってきたことがあります。
事実ここ最近でも住宅ローン撤退を表明する銀行も続々出ています。
時代の転換期ですね。
三菱UFJ信託、住宅ローンから撤退=低金利で採算悪化(時事通信) - Yahoo!ニュース https://t.co/5ungR2o70o @YahooNewsTopics
— てっぺ@完済者 (@teppesmn) October 30, 2017
UFJ信託につづき、みずほも住宅ローン撤退。
銀行のイメージが変わりますなぁ。みずほ、地方の住宅ローン業務撤退検討 資産運用は強化(朝日新聞デジタル)https://t.co/7ASdBJhNXW
— てっぺ@完済者 (@teppesmn) November 1, 2017
住宅ローンでは 1 % 未満だった利息が、カードローンなら最大 18 % まで貸せるようになるわけで銀行にとってとてもおいしい商品になっているわけです。
とてもとても怖い借金の金利の話
借金の金利の高さについてはよく語られており「xxx 円の借金を ◯◯ 年かけて貸すと総額 〜 円になる!!」みたいな話はよく聞きますが、
本書では初めて見た借金の金利の危険性を示す例がありました。
住宅ローン 2000万円を年利0.7%で借りた場合、
銀行カードローンで100万円を年利14%で借りた場合、
どっちも1年の利息は14万円
これを見てゾッとしました。
借金を重ねていた頃、また今でさえ「総額だけでみたら、住宅ローンの人たちと比べると全然マシだな!!」と自分を誤魔化していたところがあったためです。
利息だけなら消費者金融や銀行カードローンの 100 万円は、住宅ローン 2,000 万円に相当します。
自分の場合、過去 500 万円超の借金があったわけで、1 億円以上の住宅ローンの利息に匹敵していたわけです。
「マジかwww」と呟いてしまいました (´・ω・`)
これから借金をする人、いま借金を重ねている人は 100 万円の借金は住宅ローンと同義だということを肝に銘じておいたほうがいいでしょう。
借金問題はだれが悪いのか?
本書では何度も「結局のところ、借金問題は借りた本人が悪いのでは?」という疑問について触れています。
単純に借りる側の金銭感覚の話だけでなく「本当にそれだけで済ませていいものなのか?」と著者も終始自問自答しています。
以下は、本書で登場したとあるギャンブル多重債務者の債務整理を担当した弁護士さんのセリフです。
- この人は借りられるお金がなければギャンブルができなかった
- 銀行がお金を貸さなければギャンブルをやめれたかもしれないし、借金が膨らまなかったかもしれない
- 借りた人が悪いと直感的に思うかもしれないが、貸した側の銀行にも原因があると思う
- 借りた人は弱い立場にいることが多い
- そんな人にさらに返せないお金を貸し付けるほうにも責任があるのではないか
銀行が貸し出し無制限状態に対して規制を設けることを反対している理由として「消費者の利便性を損ねる」を挙げており、つまり「消費者のために限界以上貸し付けることもしている」ということになります。
これは多重債務の経験者の立場からするとまったくの筋違いだと思うのですよね。
ギャンブルでさらに借金したい人にお金を貸してあげれば、欲している人の需要に答えてあげているので確かに利便性は高いし、消費者ニーズに応えていることになります。
ですがそれで本当にいいのかというと、銀行という社会的責任を持つ立場を考えると、利便性よりももっと大事にしないといけないものがあるはずです。
多重債務者の利便性に応えたら、自転車操業を手伝うだけでより状況を悪化させるだけでしょうよ (冷笑)
銀行がまっとうな審査をしていればお金を貸すよりももっとマシな選択肢が思い浮かぶはずです。
生活費に困っていてお金を借りにきたならば銀行カードローンよりも生活保護だし、
すでに借金状態にあたりその穴埋めのためならば銀行カードローンよりも債務整理です。
お金を貸してはいけない状態の人に対して最適な選択肢を与えずに、自分たちの利益のために更に高金利でお金を貸し出ているのが銀行カードローンの実態です。
銀行という社会的責任のある立場を忘れ利益重視の方向に走ってしまっている時点で、少なくとも銀行カードローンが原因の多重債務は借りた側だけの責任では済まされないのではないかと思います。
本書の最後で述べられている提言のように、借りにきたユーザの状況に合わせて、場合によっては公的機関や債務整理などへ誘導するようなサービスの提供も必要になってくるのではないかと思います。
銀行だけでなく消費者金融も同様に、ぜひとも傷口をこれ以上広げない仕組みを導入して頂きたいものです。
借金の返済はとても辛いです。