ふるさと納税は、都市と地方の税収格差を是正することを目的としており、2,000 円を超える部分について所得税・住民税から税額控除される仕組みです。
2015 年度には、自治体の返礼品充実や制度の認知度が上がったこともあり、全国での寄付総額は 1,651 億円 (前年対比 4.5 倍) にまで急成長しました。
寄付金は、自治体の教育・人づくり・子育て・医療・福祉などに使われており、地方創生の一手として期待されています。
この状況の中で、地方財政破綻に陥った北海道夕張市の地域再生施策としてのふるさと納税に期待が高まっています。
破綻した 2006 年、夕張市は 353 億円の累積赤字があり、2016 年には以前 250 億円が残ったままです。
夕張市の人口減少率・高齢化率・少子化率は、北海道 1 位となっており、主な要因は市民の負担が増えたことに依ります。
標準税率に比べ、市民税、軽自動車税が高く、下水道使用料は 66 % も上昇しました。
市民会館や図書館は閉鎖され、地域集会施設の管理は町内会が実施してます。
しかし、最も深刻なのは、街の活力を取り戻す投資ができない状況にあります。
夕張市はもはや多くの地方自治体が直面している課題の先進地です。
再建に苦しむ夕張市は、地方財政再生だけでなく、ふるさと納税の活用を通じて街の活力を取り戻すことができるかが関係者にとっての関心地になっています。
財政悪化の原因
夕張市の財政破綻の根本原因は、政府のエネルギー政策の転換にあります。
最盛期の夕張市の人口は 1960 年の 11 万 6,908 人に対し、2016 年は 8,711 人にまで落ち込みました。
当時、日本のエネルギーの根幹は石炭であり、夕張市には石炭を掘るための鉱夫が全国から集まっており、それが夕張市の大きな財政となっていました。
しかしその後、石炭から石油へのエネルギー政策の転換が行われ、石炭の魅力が薄れていきました。
その後の夕張市は、復興施策の失敗を繰り返し、抜け出すことのできない方向へ進み、財政破綻に至りました。
具体的な要因は以下になります。
炭鉱閉山後の社会基盤整備
夕張市は、1955 〜 1990 年の間に炭鉱の閉山が相次いでおり、人口減少など地域経済の構造が急激に変化していきました。
この対策として、炭鉱に代わり、観光の振興・住宅・教育・福祉対策に対する財政支出が拡大されていきました。
行政体制の効率化遅延
もっとも人口が多かった 1960 年の公務員数は 600 人超でした。
その後閉山に伴い、体制の効率化・縮小を図ったものの、「人口 1,000 人あたりの職員数は約 20 人」「人口 1 人あたりの職員人件費も 18 万 4,000 円」と、他の自治体の 2 倍の水準でした。
観光施設への過剰投資
夕張市の観光客数は 1993 年に 230 万 5,000 人と最も多かったものの、2006 年には約半分の 115 万 9,000 人にまで落ち込んでいます。
そのため、人件費の上昇・施設の老朽化・腐敗化から、収益性の悪化が進行し、観光事業の競争力が徐々に低下していきます。
これらの対策として、夕張市は、1996 年にホテルシューパロを 20 億円、マウントレースイ (ホテル、スキー場) を 26 億円で取得しました。
本来ならば、これらは民間企業が賄うべき企業経営で自治体が関与することは避けるべきでしたが、観光事業活性化の方針のもと、夕張市主体で事業を推進した結果、構造的な赤字を招く要因の 1 つとなりました。
歳入の減少
人口の急激な減少とともに、税収入・普通交付税の大幅な減少、産炭地域振興臨時措置法の失効 (2001 年) により交付金が廃止され、歳入の減少をもたらしました。
また歳出削減の施策も十分に行われていませんでした。
財政処理手法の問題
財政状況が困窮していく中で、赤字を見えないようにする不適切な財務処理手法が長期間に渡って繰り返されていました。
これにより、実質的な赤字を見えないようにすると同時に、巨額の赤字を累積させ続けることから持続不可能な財政運営を生み出すこととなりました。
地方財政破綻による市民生活への影響
2007 年 3 月、財政再建団体に転落したことにより、夕張市は全国最低の行政サービス・全国最高の市民負担の自治体となりました。
破綻後の夕張市の行政サービス
- 個人住民税: 3,000 円から 3,500 円
- 固定資産税: 1.4 % → 1.45 %
- 軽自動車税: 1.5 %
- 施設利用料: 50 %
- 下水使用料: 66 %
- ゴミ処理手数料は有料
- 廃止事業: 遺児手当給付、敬老祝い金、子育て支援センター、農業基盤整理、ゆうばり映画祭への補助金
- 廃止・休止施設: 水泳プール、公衆便所など
- 小学校: 7 校 → 1 校
- 中学校: 4 校 → 1 校
また、市役所の職員数は財政破綻時 (2006 年) は 269 人だったものの、2016 年には 97 人になり、また市長給与・議員報酬も 1/3 〜 1/2 まで減額されています。
市民病院は、規模を縮小し診療所になり、171 あった病床は 19 にまで激減しました。
診療所は、自宅療養する患者に対しては訪問診療で対応しているものの、交通費が発生するため、患者負担は割高となっています。
夕張市のふるさと納税の現状
夕張市の寄付状況の推移
寄付金額 | |
2008 年 | 2,821 万円 |
2009 年 | 6,443 万円 |
2010 年 | 3,039 万円 |
2011 年 | 2,105 万円 |
2012 年 | 2,005 万円 |
2013 年 | 2,485 万円 |
2014 年 | 9,118 万円 |
2015 年 | 2 億 713 万円 |
開始初年度 2008 〜 2013 年度は、ほぼ横ばい状態でした。
2014 年度に状況が一変し、寄付額が前年比 4 倍の 9,000 万円超にまで増加しました。
2015 年度もこの勢いは続き、2 億円を超えるまでに成長しました。
2014 年度に増加した要因は、15,000 円以上の寄付者に対して夕張メロンを返礼品として送るようになったことです。
夕張市は、夕張メロンのブランド力をかつようしたふるさと納税に弾みがついたと判断し、さらに内容を充実させました。
2015 年には 25,000 円寄付者にはより上等な秀 1 玉あるいは優 2 玉を、5 万円以上の寄付者には最高クラスの特秀をふるさと納税の返礼品としました。
2015 年度は、ふるさと納税による地方創生を促進するため、税制改革においてふるさと納税制度の拡充が行われました。
個人の寄付限度額が 2 倍に拡充され、また確定申告不要でもふるさと納税の寄附金控除を受けることができるワンストップ特例制度が創設されました。
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ワンストップ特例制度の仕組みまとめ | 確定申告不要のふるさと納税
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夕張市と企業版ふるさと納税
企業版ふるさと納税は、企業が自治体に寄付をすると税負担が軽減される仕組みで、自治体のまち・ひと・しごと創生事業に企業が寄付すると、寄付額の 3 割が税額控除されます。
地方創生、人口減少の克服といった課題に対応するため、自治体が担う地方創生事業に企業が寄付をすることで、より地方創生を活性させる狙いがあります。
夕張市のケースでは、家具大手のニトリホールディングスが同士に 2016 〜 2019 年度にかけて総額 5 億円を寄付する方針を明らかにしています。
夕張市の人口減少に対応するため、コンパクトシティ推進と地域資源エネルギー調査事業に活用されます。
コンパクトシティは、児童館・図書館・体育館など多機能を備えた複合型拠点施設の整備事業を指します。
また、地域資源エネルギー調査は、地域資源を活用するための足がかりとなる調査で、地域資源である CBM (コール・ベッド・メタン) 開発は、石灰層から採取可能な天然ガスであり、夕張市は豊富な資源量が推定される国内最有力地です。
夕張市のふるさと納税寄付金の活用状況
2015 年度 寄付金の指定分野
寄付分野 | 金額 | 割合 |
・夕張市の地域再生 ・住民の福祉の増進に必要な事業 | 1 億 3,000 万円 | 66.3 % |
・子供たちの健全な育成に関する事業 | 3,300 万円 | 16.3 % |
・高齢者や障害者などの生活支援活動 ・住民の健康保持などに関する活動 ・住民自治活動に維持に関する事業 | 1,000 万円 | 5.2 % |
・市民の文化・スポーツ活動の推進に関する事業 | 100 万円 | 0.6 % |
・歴史的に貴重な炭鉱遺産の伝承および保全に関わる事業 | 300 万円 | 1.6 % |
・映画ロケセット施設の保全に関する事業 | 180 万円 | 0.9 % |
・市民による映画祭の開催に関する事業 | 120 万円 | 0.6 % |
・特定団体・特定事業を指定したもの | 1,700 万円 | 8.5 % |
約 2 億円 |
2015 年度のふるさと納税寄付総額は約 2 億円と、過去最高額となりました。
分野別にみると、「夕張市の地域再生および住民の福祉の増進に必要な事業」に最も多くの寄付が集められ、その割合は全体の 66.3 % です。
次に「子供たちの健全な育成に関する事業」で 16.3 % に寄付が集まっています。
以上のように、夕張市の財政再生と地域自立に対する支援、住民や子供の生活および教育のために多くの寄付金が寄せられています。
夕張市のふるさと納税まとめ
夕張市は、依然として地方財政再生の目処が立たない状況にあります。
民間企業は会社更生法手続きで債務を圧縮することができるが、自治体は破綻しても債務を減らす方法がありません。
そして、夕張市を応援しようと集まったふるさと納税の使い途でさえ国の監視下にあり、現制度では余剰金ですら自由に使うことができない状況です。
そのため、夕張市の再生方策に関する検討委員会では、すべて総務相の同意が必要という考えを改め、市の裁量権を認めたり、累積赤字を短期返済を長期返済に分け、「短期分の返済終了で財政再生とみなしてもよいのでは」といった考えをもつ委員もいます。
このように、「ふるさと納税の競争原理で集めた寄付金は夕張市の発展のために自由に予算編成しやすい仕組みに改めるべき」という意見が強くなってきたのが、最近の夕張市のふるさと納税の現状です。
ふるさと納税まとめ