ふるさと納税による流通革命
ふるさと納税の利用者は、普段は入手するのをためらうよう「ちょっと高級なもの」を返礼品として選ぶ傾向があります。
せっかくのふるさと納税の機会を利用し、たまには豪華なものを楽しもうという意図ですね。
対して、提供者側の畜産農家について見てみましょう。
従来は百貨店に商品を卸していたものの、それを辞め、ふるさと納税の返礼品だけに特化する畜産農家も出始めています。
卸売と違い、消費者への直販のほうが高く売れ、しかも実入りが良いためです。
ふるさと納税を介した直産ルートを確立することができれば、生産者は潤い、しかも消費者は安い価格で食材を得ることができるようになり、双方でメリットを享受することができます。
従来の流通ルート
- 農家がジャガイモを生産する
- ジャガイモを農協に卸す
- 農協からスーパーマーケットに卸す
- 消費者はスーパーマーケットでジャガイモを買う
ふるさと納税の直販ルート
- 農家がジャガイモを生産する
- 農家が消費者に直接配送する
価格面以外にも鮮度のメリットもあります。
従来の流通経路では、中間業者を挟み店頭に陳列され、そこから食卓に届くことになるため、数日のタイムロスが発生します。
しかし、ふるさと納税返礼品の場合、直接販売に近い形になるため、卸やスーパーマーケットを中抜きすることができ、新鮮な食材が翌日に届くことになります。
特に野菜の場合、鮮度の高さは非常にメリットが大きいのではないでしょうか
ふるさと納税で築いた産地直販が定着すれば、家計にとっては安く食材を手に入れることができます。
また、農家にとっては、農協に卸すよりも高い値段で売ることができ、消費者、農家共に潤うわけです。
いくつかの自治体で実施されている「定期便」形式の返礼品を利用することで、ふるさと納税がスーパーマーケット市場の代替となることも十分ありえます。
また、今までは地方の農家を維持するために補助金をつけたりしてましたが、産直が定着することで農家は潤い、このようなサポートの必要性は下がります。
そして、農協だけとの付き合いでなく、生産者が消費者と直接結びつくことにより、より生産意識が高まる結果にもつながります。
このように、ふるさと納税をきっかけに直販ルートが定着することで、自然と生産性の向上にも繋がることにもなります。
特にこれまでは、生産者が直販の通販を自前で導入しようとした場合、「梱包」「荷詰め」「配送」「ラベル貼り」といった作業を自分たちで全てやらなければいけなかったのが参入障壁を高めていました。
しかし、ふるさと納税が活発な自治体の場合、自治体が一括で環境を整えてくれるため、圧倒的にハードルが下がります。
例えば、長崎県平戸市の場合、集荷トラックが到着する時間が合わせ一斉に商品の梱包を始め、1 番鮮度の良い状態で出荷しています。
農家が行うのは、朝いつも通り時間に収穫し、その帰り道に集荷場に野菜を卸すだけです。
従来の農協に野菜を卸す作業と大差なく、直販の仕組みを実現することができるというわけです。
このように、ふるさと納税の返礼品は、流通革命の可能性を秘めていると言っても過言ではないのです。
ふるさと納税返礼品による企業タイアップ
福島県南相馬市は、東日本大震災による福島第一原発事故による被害の大きい地域であるものの、ふるさと納税の寄付額は減少傾向にありました。
理由として考えられるのが、まず同市の特産品に対する放射線風評被害があります。
また、東日本大震災から 5 年以上経過し、
「復興資金はもう十分なのではないか」
「震災支援は熊本のほうが優先なのではないか」
という考えが寄付者の間で発生した可能性があります。
このような事情に対し、アディダス・ジョンマスターオーガーニックなど、若者に人気のブランド企業が南相馬市に返礼品の提供を開始しました。
タイアップの狙いとしては、若者層にまだ支援の必要な南相馬市の現状を知ってもらいたいということです。
単に所構わず商売のために商品提供するのでなく、支援が必要な事情を抱える自治体に商品提供する場合、企業による社会貢献の側面も出てくることになります。
なお、この南相馬市の取り組みは地元 NPO 主導によるという珍しい事例です。
ふるさと納税と自治体競争
ふるさと納税は自治体に「競争」という今までになかった原理を持ち込んでおり、自治体運営の概念を覆したともいえます。
自治体に競争させることで、自治体が勝ち組 / 負け組の二極化してしまうのか、あるいは全体底上げされるのか、これは今後注視したいポイントです。
二極化が進んだ場合、勝ち自治体が負け自治体を吸収合併していくようなことになると、それこそ企業経営と同様になります。
従来の地方行政は、行政学・公共政策・財政学・地方自治で語られていましたが、ふるさと納税の登場で経営視点が加わることとなりました。
- 自分の自治体をどうやってマーケティングするか
- 差別化するか
- 売り込んでいくか
これらは完全に「経営」と言えるでしょう。
経営には当たり前ながら競争がつきまとい、ふるさと納税の寄付金を集めるのに長けた自治体は子育てがしやすくなるかもしれませんが、そうでないところとの格差が広がってしまいます。
民間企業の場合、競争の結果、淘汰されても仕方がないですが、行政の場合は、住民のリストラや行政サービスの質を保つ必要があります。
そのため、行政に対して、民間と同様の競争概念を持ち込むことは弊害となる可能性があります。
ふるさと納税の意義
ふるさと納税できる限度額は住民税の 2 割であるため、どの自治体も住民税の 8 割は失うことのない予算ということになります。
そのため、ふるさと納税は「住民税の 8 割は保証するので、それで通常の行政サービスを実施しなさい、残りの 2 割は全自治体で拠出し、全自治体で競争して取り合ってください」という構図であるといえます。
つまり、住民税の 8 割は最低予算とし、各自治体の自主的な取り組みを促すため、残り 2 割は競争的資金となることを意味します。
ふるさと納税の次のステップ
消費者が各地域の魅力に気づき始めたことが、ふるさと納税の大きな功績と言えます。
さらに一歩進んだ理想形は、ふるさと納税をきっかけとして、ふるさと納税経由以外でその自治体の特産品などが購入されるようになることです。
しかし、リピートしようと思った場合、もう 1 度その自治体にふるさと納税するのが、消費者の現実です。
消費者が身銭を切って購入しようとするのは、ふるさと納税制度が廃止後でしょう。
そのため、ふるさと納税制度が存在するうちに、各自治体の事業者は消費者が自発的に買いたいと思えるようほどにブランディングしておく必要があります。
ふるさと納税は、そのための助走期間と考えることもできます。
またもう 1 つの理想形は、ふるさと納税をきっかけに人との交流が始まることです。
1980 年代後半にも、政府は各自治体に 1 億円を交付し地方創生を試みたことがありましたが、当時はバブル期だったこともあり、日本が抱える借入金は今ほど深刻ではなく、地方創生に関する本気度や危機意識は希薄でした。
そのため、当時の 1 億円事業と比較すると、今のふるさと納税事業では交流人口の増加を意識する自治体が多くあります。
ほとんどの自治体で人口減少課題に直面する中、観光者や移住者を増やしたいという自治体の危機意識がふるさと納税施策にも現れています。
ふるさと納税と地方商社
ふるさと納税で興味深いポイントは、自治体職員が返礼品となる商品を発掘、あるいは既存の特産品の魅せ方を変えるほどのプロデュースをすることで、マーケティングを通じて全国に売り込んでいる点です。
- 地元にどんな企業があり
- その商品力がどの程度で
- どうやって売り込むか
これらの活動は商社のものと同様で、ふるさと納税では、商社機能がうまく働いている自治体が多くの寄付金を集めることに成功しています。
実際のところ、大阪府泉佐野市のように、商売感覚で楽しむことでふるさと納税で成功している自治体も少なくありません。
一方で、商売に慣れておらず、従来の自治体業務に慣れている職員にしてみると、ふるさと納税は望まない仕事であると言えます。
また役場業務は定期的な人事異動が発生するため、ふるさと納税ノウハウや地元事業者とのコネクションを引き継いでいく必要があり、最悪の場合、ゼロからやり直しとなる可能性もあり、自治体業務とふるさと納税業務は効率観点では相性が悪い面があります。
しかし、ふるさと納税業務の商社機能を地元企業などに切り出すことができれば、こういった問題を緩和することができます。
実際にふるさと納税のうちビジネス色の強い業務を役場外に委託している自治体も存在します。
この場合、役場担当者がいなくなってもふるさと納税を継続することができますし、ふるさと納税が終了したとしても、その商社が返礼品ノウハウを活用し通販事業を行うといった継続展開も可能です。
そのため、地元商社を育成することも、ふるさと納税の今後の課題と言えるでしょう。
ふるさと納税まとめ