ふるさと納税制度は、返礼品競争の激化や都市部の税収減により問題視されつつあります。
そんな中、都城市は、寄付額の多さや「肉と焼酎」に特化した返礼品で全国から注目されています。
都城市の概要
霧島連山を望む都城市は、人口約 16 万人となる宮崎県第 2 位の都市で、宮崎・鹿児島県境で内陸部の盆地に位置する自治体です。
温暖な気候のもと、農業・畜産業が盛んで、特に肉用の牛・豚・鶏においては全国有数の産地として知られています。
また文化・言語では、薩摩藩領であったことから、今でも鹿児島の影響を色濃く残しています。
2006 年 1 月の近隣 1 市 4 町の合併により、現在の新・都城市が誕生しています。
都城市の 3 つの宝
- 農林畜産業
生産者と関係者が一丸となって、都城の農業を日本一へ- 地の利
恵まれた地理的環境を活かし、「防災の道」「経済の道」「医療の道」の拡大へ- 次世代を担う子どもたち
人間力にあふれ、ふるさとを誇れる人に
都城市は 3 つの宝として「農林畜産業」「地の利」「次世代を担う子どもたち」を掲げており、これらを基幹産業として市民一人一人が輝くまちづくりを進めています。
ふるさと納税の戦略や使い道もこの 3 つを中心軸としています。
宮崎県のふるさと納税
宮崎県はふるさと納税に力を入れている自治体が多く、2015 年の寄付額は、103 億円と全国都道府県の中で 4 位となりました。
宮崎県全体では、2013 年はわずか 3 億円だったものの、2014 年には 23 億円に急増し、2015 年はさらに伸びた形になります。
宮崎県のふるさと納税上位 5 自治体
自治体名 | 2014 年度 | 2015 年度 | 人気返礼品 | |
1 | 都城市 | 4 億 9,900 万円 | 43 億 3,100 万円 | 肉、焼酎 |
2 | 綾町 | 9 億 4,300 万円 | 13 億 8,000 万円 | 豚、マンゴー、有機野菜 |
3 | 都農町 | 300 万円 | 7 億 300 万円 | 豚、牛 |
4 | 小林市 | 1 億 3,300 万円 | 6 億 6,600 万円 | 牛、マンゴー |
5 | 川南町 | 1 億 6,900 万円 | 5 億 7,500 万円 | 豚、のどぐろ、マンゴー |
各自治体は、特色ある返礼品を用意しており、その寄付額も多いため、2015 年には都城市が全国 1 位となりました。
同市のふるさと納税の勢いはとどまることを知らず、翌 2016 年には約 2 倍の 71 億円の寄付額を集めています。
この結果に対して、宮崎県知事は
「宮崎の特産品を、ふるさと納税を通じてアピールした結果ではないか。県内市町村が都城市などに刺激を受け、いい意味での競争に期待したい」
と述べています。
都城市は26日、2018年度のふるさと納税の寄付総額が、過去最高の約95億6000万円(速報値)になったと発表した。17年度を約21億円上回り、市の特産品である「肉と焼酎」を中心とした返礼品が依然高い人気を維持している。
2018 年の寄付総額は 95 億円を超え、ふるさと納税を始めてからの過去最高額となりました。
都城市の PR 戦略とふるさと納税
PR 戦略としてのふるさと納税
肉と焼酎のふるさと「都城」
都城市は、全国有数の畜産基地であるとともに、全国一の出荷額を誇る酒造メーカーが立地する、肉と焼酎のふるさと。
これらを柱に、当市の魅力を全国に PR しています。
都城市は、南九州の内陸部にあり、宮崎県と鹿児島県の県境に位置する宮崎 2 位の年であり、薩摩発祥の地という歴史ある自治体です。
同市のふるさと納税は、2014 年から急速に成長しているが、それは池田市長の就任後からとなり、市長の戦略的発想が影響していると考えられます。
池田市政は PR を重視しており、2014 年 4 月に「みやこんじょ PR 課」を設立し、著名な書家に依頼し「都城」をモチーフにした市のロゴを制定したほか、肉と焼酎を前面に推した PR 戦略を展開しています。
この戦略は、都城市は全国有数の畜産基地で全国一の酒造メーカーが立地する肉と焼酎の地域であり、これを全国に PR すると市政要覧でも述べられています。
市民に配布される市政要覧へ記載することで、市民を巻き込んだ戦略としているわけです。
また県外で高い知名度を誇る霧島酒造の代表銘柄「黒霧島」に便乗したキャッチコピーの利用など、露出を増やそうと話題作りに懸命です。
このような中、都城市のふるさと納税は市長就任後の 14 年秋から大幅にリニューアルします。
以前は、特産品の詰め合わせセットを返礼品としていたものを「肉と焼酎」に限定する戦略を打ち出しました。
池田市長は、都城は肉と焼酎の生産量・売上高が日本一であることから「日本一の肉と焼酎のふるさと」と全国の人に知ってもらうため、ふるさと納税の返礼品も肉と焼酎に絞ったとのことで、この 2 品に限定したことが都城市のふるさと納税成功戦略といえるでしょう。
焼酎ブームと地元企業
2015 年 焼酎・泡盛メーカー売上高ランキング
順位 | 社名 (所在地) | 主力ブランド | 売上高 |
1 | 霧島酒造 (宮崎県) | 黒霧島、白霧島 | 589 億円 |
2 | 三和酒類 (大分県) | いいちこ | 480 億円 |
3 | 雲海酒造 (宮崎県) | 雲海、日向木挽 | 161 億円 |
4 | 二階堂酒造 (大分県) | 二階堂、吉四六 | 160 億円 |
5 | 薩摩酒造 (鹿児島県) | さつま白波、黒白波 | 150 億円 |
【宮崎日日新聞】霧島酒造が4年連続V 全国焼酎メーカー15年売上高
都城市のふるさと納税の返礼品特化は、都城ブランド確立のためのものであり、伏線となるのが焼酎ブームでした。
芋焼酎ブームでは、宮崎に比べ鹿児島の焼酎のほうが有名で、全国 1 位の「黒霧島」は鹿児島が本社と思われがちですが、本社は都城市にあります。
宮崎県全体の本格焼酎出荷量をみても、順調に伸びており「焼酎 = 鹿児島」のイメージを完全に覆すまでになっています。
都城市のふるさと納税効果
住民サービスの充実
都城市のふるさと納税では、「子ども支援」「環境支援」「まちづくり支援」など 8 つから、寄付者に使途を選択してもらい、それに応じた事業に寄付金が使われています。
寄付金の活用事例
- 放課後児童クラブの追加設置
※2015 年: 47 ヶ所、2016 年: 52 ヶ所 - 子育て支援センターの追加設置
※2015 年: 3 ヶ所、2016 年: 5 ヶ所 - 「中学生海外交流事業」を 10 年ぶりに再開
- 不妊治療費助成の事業化
- コンビニでの各種証明書発行サービスの開始
県外 PR と地場産業の活性化
2015 年にふるさと納税全国 1 位と、地元メディアをはじめ全国誌でも紹介されるようになると、都城市の知名度は大きく高くなりました。
全国からの視察も相次いでおり、国や各自治体が地方創生の成功例として注目しています。
また、当初は「肉と焼酎」に特化した返礼品でしたが、2015 年には飲料やマンゴー、米などが追加され、2016 年には「ふるさと納税振興協議会」が発足されました。
今では 55 以上の事業者がこれに関わり、地場産業振興を中心とした地域活性化に繋がっています。
職員の意識改革
返礼品の手続き業務を通して、職員に「品質管理」「お客様目線」が育っているとのこと。
職員にとって最大のお客様は市民であり、この意識改革が住民サービスの意識改革にもつながっています。
ふるさと納税の効果について、池田市長は、
最近の消費者ニーズは多様化しており、田舎では当然のことが都会の人にとっては宝物というものもある。
足元の宝物を発掘し、見せ方を工夫すれば、どの自治体にもチャンスはあると思う。
まずは行政側が自己満足的なお役所意識を変えること。
金額(税収)目的ではなく、全国にファンを作るつもりでPRすることが大切なのではないだろうか。
と、述べており、自治体の強みを再確認した上でのふるさと納税施策の大切さを強調しています。
都城市のふるさと納税まとめ
都城市のふるさと納税の取り組みの特色は、市の知名度アップ戦略として、ふるさと納税を最大限活用していることです。
その手法は特産品を「肉と焼酎」のたった 2 つに絞り込むこと戦略的なものです。
2 つに絞り込む決断は、平等・公平にこだわる従来の行政の発想から脱した民間発想ともいえ、市長のリーダーシップが十分発揮された事例といえます。
また、ふるさと納税は、単なる行政サービス充実の財源確保だけでなく、
- 地場産業振興など地域活性化
- 市職員の意識改革
にもつながっており、市民にとって分かりやすい市政の実績となっています。
このように、都城市におけるふるさと納税の取り組み結果は、戦略的な市政運営の成功例と言えるのではないでしょうか。
ふるさと納税まとめ